市内保育所(園)の防災研修事業を担当させていただきました。

座間市保育課からの要請で、急きょ市内保育所の管理者に対する防災研修と公立保育所の避難訓練評価並びに保育スタッフに対しての防災研修を計画してほしいということでレッスンプランを立てて提案、承認をいただき研修事業に着手しました。

座間市には、市内に9つの公立の保育所と10か所の市立の保育園+1か所の病後時保育センターがありその他、無認可保育所がいくつかあります。

私たちは、幼稚園に対してまた、一部保育園についても「シェイクアウト訓練」関係で訓練説明などを通じて、ご縁ができて依頼を受けてご指導をさせていただいている園がいくつかあります。今回のような企画については以前から必要だと思っていただけに精一杯取り組ませていただくつもりです。

4年前の、東日本大震災では学校施設や幼稚園での被災で被害(死亡)を受けた事例の報告はかなりの数になっています。いくつかの事故については新聞やテレビでも話題になり、被災者が被災者を訴えて裁判で争うという事態になった例もあります。しかし、幸いなことに保育所での事故は思ったほど多くなく引き渡後の事故を含めての十数名の範囲で収まったと聞いております。これは不幸中の幸いという言葉で簡単に括るのではなく、何よりも一人ひとりの保育士さん方の必死の努力が報われた結果だと思います。また、不幸にして亡くなられた園児の方、そして保育士の方のご冥福をお祈りいたします。

災害には様々な種類があります。今回の研修は「地震などによる自然災害」という分野に区切って取り組ませていただきました。台風や、竜巻のようにある程度、事前に警報が出る災害であれば「手を打つ」ことができます。しかし、地震や火山噴火などの地変災害はどうにもならないのです。であっても、幼い子供を預かるという場では、それでもなお守り切らなければならないという過酷な使命があるわけです。

限られたスタッフ…どこの園も必ずしも予算的にゆとりがあるわけはなく、法律で定められている保育士の定員数ぎりぎりで運営されています。そのような条件の中で管理者、準管理者並びに次級者としてその時どのような「心構えについて」お話してもあまり役に立たないのではないかと考えました。(このような精神論的な研修は国や県並びに各種団体が実施済み)

災害の中の個々の話しをしだしたらきりがないのです。もしかしたら先生方が不安になってしまう危険性があります。また、研修の時間も勤務時間後の2時間です。

精神論的な「あるべき姿」も話ではなく、先生方に考えていただき、いま、自分の園には何が必要なのかということを考えるための手段や方法を考えていただくきっかけを差し上げる「課題提供型」の研修にまとめることにしました。

基本は、何よりも「生き残らなければ何も始まらない」ということであります。先生方は、1日のうちおそらく10時間程度は園の仕事にかかわっていると想定しました。それでも、1日24時間のうちの10時間ですので園にいる時よりご自宅にいる時のほうが地震に逢う確率は高いと思うのです。

その時には、①家庭人としての立場、②地域の一員としての立場、③保育者(管理者)としての立場があると思います。保育者として園に駆け付けて…という行動以前に、仕事を円滑に行うためには、足元を固めなければならないわけです。でも、自宅で地震に遭遇した場合には、園児を抱えていないだけ楽なはずです。まずこの立場・役割をしっかりと認識してもらいました。

私たちが担当する講座では、どのレベルでも「緊急地震速報」の疑似テロップ、NHKの緊急地震速報チャイム音を予告し、パワーポイントの中で流します。そして私たちのスタッフの「地震!」という発声で「シェイクアウト安全行動」をとってもらっています。   市を挙げての訓練の成果もあって座間市での講座では見事な対応行動をとるようになりました。特に、幼稚園、小学校低学年での訓練は、極端にいうと瞬きする間に姿が見えなくなるほどです。今回の先生方の2回の研修でも見事にできました。

私は、東京大学の目黒教授の開発した「目黒巻」を体験するプログラムを入れました。目黒先生は「人間はイメージできないことは行動できない」ということをおっしゃっています。私自身も、災害の講座を担当するようになってからは絶えずイメージングするように努めています。

たとえば、今でも石巻や陸前高田市、女川町へお手伝いに入ることがあります。このような時に、もし地震が起きたらどう行動するか・・・ということを瞬時の行動、3分間の行動、3時間の行動というおおよその時間軸で自分の行動をイメージします。時には、ポストイットを使って書き出しをします。その時に、自分なりに「負荷条件」を想定して「重要性」と「緊急性」のはかりを考えてイメージをするようにしています。今いる場所の標高は、海の方向は、山の方向は、避難路は…仲間の宿泊している部屋の関係などなどです。幸いにして、これが役に立ったことがないからこそ今ここにいるのかもしれません。

 先生方にシートをお配りしました。想定発災時刻を午前11時にしました。地震は、首都直下南部地震(M7.5)、座間市では震度6弱から5強の揺れ、インフラはすべてダメという状況を付与しました。しかし、その揺れが実際にどの程度のものなのかということを再現することはできませんので、多くの講座で使われている「阪神淡路大震災」の震度6強の揺れの動画を見てもらい頭の中を災害モードにしたのちにシートへの書き出しをしてもらいました。

10分間という限られた時間です。

「書き出し作業時間終了」の合図で筆を止めていただきました。

本当は、ここからの作業が大事なのですが時間がないので、私が点検をさせていただき質問をさせていただきます。多くの先生は、緊急地震速報の対応の部分の記述が抜け落ちています。シートには発災の「ナマズマーク」の横に「0秒」がセットされています。しかし、その前に-20秒という欄を作っています。

当然、M7.3クラスの地震が、東京湾で起きたら「緊急地震速報」が鳴ります。その時点から対応行動が始まるはずです。この最大値20秒、場合によっては10秒否5秒かもしれません。この超短時間こそが被害を少なくすることのできる時間なのですね。

多くの先生は、地震が来た、0秒からの記述で始まっています。0歳児の幼児の安全確からスタートしているのです。本当にそれで良いのかということですね。目黒巻には正解はありません。正解を解くことを目的としていません。

災害とそれによって起こりうる被害、その被害の中での対応行動をそれぞれの施設(環境)ごと時間軸をベースに管理者、サブ、さらにスタッフ、園児などの行動を総合的に整理してゆく、ここの行動をまとめてさらに類似の行動をまとめて・・・というKJ法のような手順を取って全体のフェーズを合わせてゆくための導入ツールなのです。

災害対応というのは目の前のことに集中してしまいます。しかし、管理者はその先のことを」イメージできていなければならないと思います。

「災害の前のこと」すなわち「災害に備える」ということの大切さを気づいていただかなければならないのです。日々の保育に追われている中でとてもそんなことは・・と思われるかもしれませんが、だからこそ、必要最小限のことが自然に動くようにしておかなければ対応はできないのです。すなわち、事前の備え・・・「減災活動」こそが被害防災の最大の武器になるのです。

私は、最初に「生き残らなければ何も始まらない」という毎度おなじみのキーワードを話しました。誰もが知らないうちに思っている「自分だけは生きている」という不遜な気持ちを捨てて生き残れる可能性の高い環境構築が必要なことを理解していただきたいのです。

今回の講座の落としどころは「生きる」「備える」「かかわる」ということです。

「生きる」ために必要なことは「そなえる」ということなのです。限られた条件の中で「そなえ」を作り出す・・園児のためスタッフのための安全空間の確保をどう考えるかということです。

生きるということは、保育士の先生方が「生きなければ」子供たちは生き残れません。そして大事なのは「生き延びる」ということなのです。3・11の帰宅困難者の状況から今自治体は企業に対して従業員の発災直後からの帰宅行動を抑制する方向に動いています。

このことは園にとっては保護者が園に迎えに来られない・・・すなわち園内での「抱え込み」を考えなければならないわけです。

生きのびるためには…必要なこと「食う」、「出す」、「飲む」そして「情報の確保(電力の確保)」であることをお話しさせていただきました。

限られたスタッフの数で「生き延びる」ためには限度があります。そこで必要となるのが「かかわる」という集積行動だと思います。災害によって園の周辺の方々のすべてが被災するとは考えられません。被害のある方もいるかもしれませんが軽微な被害者もいるはずです。その時、園を取り囲む地域の方々のお力を借りられる体制を「そなえる」ことで「かかわり」が生きてくるということをお話しさせていただきました。

自分たちでできる力の範囲には限界があります。

であれば普段から「助けを受け入れることができる体制」これを「受援力」と呼びますがこれを構築しておくことが難局を乗り切る対策の一つだと思います。つい最近ネパールで大規模な地震が起きて8000人を超える死者のほか多数の行方不明者が出ているようです。発災後、近隣諸国は人道支援の見地から政治色を出さずに「国際救援隊」を組織して現地へ赴きました。ところが、日本隊をはじめは多くの国の救援隊は、ネパールを眼前にしてはいることができずにタイへ戻る羽目になりました。これは、ネパールの国際空港が狭いこと、救援隊を受け入れるためのノウハウがなかったために空港運営ができなかったからといわれています。受け入れる力…これを私たちは「受援力」と呼んでいます。

目黒巻の詳細の解説をする時間はとれませんでしたが、もし先生方は案として興味を持った場合にはいつでもお話やご相談に乗りますよということを伝えました。皆さん方の園でもこの能力を高めてゆくことが肝要だと思います。

災害時避難行動要援護者というとすぐに高齢者、身障者、外国人などというカテゴリーが浮かんできます。しかし、何よりも大事なのは次代を繋いでくれる「子供たち」そして妊産婦の方々も大切にしなければならないのです。

座間市にとってこの子供たちは「宝物」なのです。先生方はその宝物の守り神の存在だと思うのです。ご苦労が多いと思います。特に、民間の保育所は0歳児の乳幼児の預かりが多いと伺いました。

もし私ならば・・と考えると恐ろしくなってきます。今回の研修では、あまり厳しい事例を挙げての説明はかえって先生方へ負荷がかかることになりかねません。必要最小限に絞りましたがまた機会があれば各論について一緒に考え行こうと思っています。

この後、今年度は公立保育園の避難訓練の観察と評価をさせていただきます。その際に、園内を拝見させていただき安全空間の確保、備えの状況を拝見させていただこうと思います。また、そのあと保育士のスタッフの方々にも「災害について」お話をさせていただくことになっています。あまり、負荷のかからない範囲で、でも保育者として働くものとしての使命感と覚悟をもっていただける研修にしたいと考えています。

この研修が、単発的なものではなく、できれば毎年繰り返し継続する地に足のついた継続事業になることを願っています。今回の研修は夕方からでした。許されるのであれば学んだ知識が「技」にすることができる昼間のゆとりの時間で企画・実施する機会をいただけると災害をわがことに考えることができると考えています。

6月の各園への訪問を楽しみにしています。